すずめや商店

映像業界の片隅で生きる女・すずめを彩るものたち

【ドラマ】カルテット~ちょうどいい場所~

過去があって、今がある。たとえそれが苦しくても

※ネタバレなしレビュー

カルテットロスも過ぎ去った今更ながら、絶えない評判と「途中から見始めたんだよね」という何とももったいない声をたくさん聞くので、ぜひ第一話から見てほしく感想を書いてみようと思います。

概要

本作は、脚本家・坂元裕二氏のオリジナルストーリーの連続ドラマ。過去に手がけた作品は『Mother』(NTV)、『最高の離婚』(CX)、『Woman』(NTV)など。「ギャラクシー賞3月度月間賞」も受賞した。
最初の視聴率こそ高くはなかったものの評判が評判を呼び、話題の作品となった。
演出家は、同じ枠の前クールで大ヒットドラマとなった「逃げるは恥だが役に立つ」の 土井裕泰、他。

あらすじ

舞台は冬の軽井沢。偶然と必然が混じり合い、カラオケボックスで出会った30代の男女4人。
4人共が弦楽奏者であり、カルテットを組むことになる。
第1ヴァイオリン奏者・巻真紀(演・松たか子)は唯一のプロ経験者。結婚しているが夫は1年以上失踪中。
チェロ奏者・世吹 すずめ(演・満島ひかり)は幼少期のの経歴が理由で職場を転々とし居場所を見つけられないでいた。真紀の義母からの依頼で、真紀との接触を図った。
ヴィオラ奏者・家森 諭高(演・高橋一生)は美容室でアシスタントのアルバイトをしている。理由があり男2人組に追われている。
第2ヴァイオリン奏者・別府 司(演・松田龍平)は親族は皆がプロの音楽家として活動する「別府ファミリー」だが、自身はプロになれず会社員として働いている。4人はいつか大きなホールで演奏したいという夢を掲げ、別府の別荘で共同生活をはじめた。別府の勤める会社がドーナツ販売チェーンであることからカルテットドーナツと名付けるが、後に皆それぞれに欠点を抱えた4人が奏でる音楽、という意味を込めてカルテットドーナツホールと改名した。
音楽を夢にするのか仕事にするのかどちらにもなりきれなかった4人の心の変化。
芽生える恋心。秘密を一つ知るたびに強くなる絆。
そして4人は「ちょうどいい場所」にたどりつく。 

感想

全てが秀逸だったと言わざる今作で、まず讃えるべきは脚本だろう。
言葉の妙が織りなす会話劇は、これまでにない心地よさだ。巧みな比喩は4人の心の中を見え隠れさせ、見る者はその先の想像を掻き立てられずにはいられない。ストーリーも4人の過去が徐々に紐解かれていく仕掛けに釘付けにになってしまう。全てを見終わったとき、また第一話から見たくなった人も多いだろう。

そんな脚本を演じた4人の演者は誰一人欠けてはならない。
満島ひかりの表情を見れば彼女が背負ってきた30年が、どんなものだったかが思い描ける。
松たか子の控えめながらまっすぐで強さもある真紀の演技は、真相を知ったとき、ひとつひとつのしぐさの意味が深く蘇る。
家森は癖があるけど柔らかく、優しさも隠し持っていて、高橋一生ならではの役作りに惹きこまれる。
普通に生きているように見えて普通に欠点もある別府は、見る誰もがそこに自分を映し出せるような普遍性があり、改めて松田龍平の柔軟さを知ることになる。

欠点があっても、過去から逃げても、自分が自分であることは変わらない。だけど歩き続けていると、いつか自分にとって「ちょうど良い場所」が見つかる。受け入れてもらえる場所がある。心地よい場所がある。それは仕事とも限らないし、結婚とも限らない。欠点があったって、過去が辛くたって、何度だってやり直せる。なかったことにはできないけれど、何度だってやり直せばいい。そんなメッセージに思えた。
1年がたって、いくつもの秘密を共有して、何かが思い通りになったわけではないけれど、確実に4人は前へ進んでいた。とても魅力的だと思った。そんな読後感だった 

そして見ごたえのあるエンディングは、カルテットドーナツホールの4人が歌う、椎名林檎書き下ろしの「大人の掟」。
ドラマの世界観から飛躍した映像となっているが、あるべき場所へたどり着いた4人の幸福と隠し持つそれぞれの気持ちが描かれているようで、何度見てもドキドキしてしまう。回を重ねるごとにこのエンディングの意味が解かれるように見えた。 

何も欠けていない人がいないように、誰が見てもどこか自分を想いながら見守ってしまう、そんな作品だったのではないだろうか。 

 

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